会社から独立起業して、個人事業主として仕事をする方法があります。
タニタでは、社員を個人事業主化する制度を導入するなど、企業単位での新たな取組も出てきました。
これは、社員を退職・独立起業させ、改めて会社と契約し、それまでと同じように仕事を行うというものです。タニタ独自の方法です。
「社員を個人事業主化したタニタの働き方」
国が進める働き方改革も、社員の副業を後押ししており、働き方の多様化はこれからの流れのようです。
厚生労働省の「副業・兼業」への取り組み
「会社の中で、個人事業主に働いてもらう」という労務形態を考えてみます。
社員でもない、派遣でもない、新たな働き方とはどのようなものでしょうか。
タニタの手法については、タニタから2019年に出版されています。
『タニタの働き方革命』谷田千里、タニタ(編著)日本経済新聞出版社
いろいろな雇用形態については、「雇用形態を知ることで働き方はかわるのか」でまとめてあります。また、起業の方法については「起業とは」にまとめました。
個人事業主を社内で雇うことにメリットはあるか
企業はこれからの大きな社会変動に対応していかねばなりません。そのためには、様々な雇用形態を使いこなすことがリスク分散になります。
また、必要な能力を必要な時につかえるなど、個人事業主を社内で活用することは、これから大きなメリットになると思われます。
個人事業主を社内で雇う方法
皆さんの会社でも、外注、アウトソーシングはされていると思いますが、アウトソーシング先が個人事業主で、その人が社員と同じように会社内で働くスタイルです。
個人事業主化社員が、社員と同じように働いてもらう方法は2種類考えられます。
社員を個人事業主化する方法
会社が社員の独立起業の手助けをし、社員が個人事業主となった場合、今までのように会社で働いてもらう方法です。
これは、タニタが取っている方法です。手法としては新しく、正直、まだ確立しているとはいえません。タニタのこれからの動向を注視したいと思います。
社員が個人事業主になると、会社との間で委託契約を結びますが、これの解除をすると、実質的なリストラになります。
会社にとって不況時には助かるでしょうが、社会的に強い批判を受けることになります。導入の際には、慎重な制度設計と情報公開が必要になります。
経験のある個人事業主と契約する方法
中途採用などのように、経験や能力のある個人事業主を社内に入れる方法です。
社員全体に対する比率が少ないこと、必要な能力を見極めてから個人事業主化社員として契約できることなどから、すぐに採用できる現実的な方法と考えられます。
個人事業主化社員のメリット・デメリット
個人事業主化社員は、会社にとって都合のいい制度なのでしょうか。メリットとデメリットをみてみましょう。
会社のメリット
リストラがしやすくなる
会社にとって、個人事業主化社員がいることで一番都合のいいのは、リストラをしないといけない事態への対応です。
新型コロナウイルスで、売り上げが激減した会社は、まずアルバイト、パート、フリーランスと契約を切っていきました。
従業員の解雇は最後になります。従業員の解雇は労働法で厳しく規制がかけられているからです。
つまり、いざという時には、委託契約解除で実質的なリストラができる会社にとって都合のいい制度です。しかし、この手法を前提とした個人事業主化社員との契約は批判を受けます。
勤務管理をしなくていい
会社は個人事業主化社員に委託契約に基づいた成果のみを求めればいいので、出退勤管理や残業時間の管理、社員の健康面の管理など、細かくしなくていいわけです。
契約に関しては、「下請けいじめ」をしてはならない、つまり、適正な質・量・額の契約を結ばないといけないので、会社が全く関与しなくていいわけではありません。
社員育成をしなくていい
社員を育てるのには、社内教育、社外研修への出席など、時間とお金がかかります。これを企画・実施する職員も必要です。
業務委託ですと、委託相手に教育をする必要はないので、これらを考える必要はありません。個人事業主化社員についても同様です。個人事業主は自分の時間と費用で自分を研鑽していくのが前提です。
つまり、相当の経費を削減することができます。優秀な会社ほど、社員教育には予算を割いていますから。
各種手当をカットできる
手当には次のようなものがあります。これをカットできるのは大きいですね。
通勤手当(通勤にかかる費用)
残業手当・超過勤務手当(時間外労働に対し割増賃金として支給される)
住宅手当(従業員の家賃一部負担や持ち家のローン返済補助など)
家族手当・扶養手当(社員に扶養家族がいる場合に支給される)
地域手当(物価が高い地域に務める従業員に支給する手当)
役職手当(管理職以上の社員に支給する手当)
皆勤手当(欠勤・遅刻のない職員に支給される手当)
資格手当(職務に必要な資格を持つ社員に支給される手当)
社会保険料もカットできる
会社が負担している社会保険といえば健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険です。
これがどれくらいの額になるかというと、給与の15%くらいです。
健康保険と厚生年金保険は社員と折半とはいえ、会社にとって大きな負担です。これも、バッサリ削減できます。
福利厚生費なども不必要
福利厚生費には、社宅に関するもの、健康診断費、社内レクリエーション、社内旅行、残業の際の食事代、社内サークルなどへの補助などがあります。
これも個人事業主化社員の分は負担する必要はなくなります。
会社のデメリット
個人事業主化社員は、会社の指示を聞く必要がない
これは、「契約した業務についての協議・打ち合わせは行い会社の意向に沿って業務は進めるが、契約以外の業務についての指示は受けない」が正確でしょうか。
パートタイマー・アルバイトは完全に時間給です。時間内の仕事の指示は会社が出すことになります。
派遣社員は、身分は派遣会社に、指揮命令系統は派遣先の会社にありますから、派遣先の会社が仕事について指示を出します。
外部委託の場合は、契約に基づいてプロジェクトを進めます。業務を進める主な場は委託先の会社です。業務を進める中で、必要に応じて「協議・打ち合わせ」を行います。
個人事業主化社員にとっても、この場が、「指示」に近いものになりますが、契約に基づいて、甲乙お互いの立場で話をしていくわけです。
日本の場合、その社会風土から「親」の立場が強く、無理を言って契約書にない仕事を押し付けたり、契約額を切ったりすることが多々行われています。
タニタのような動きが出てきて、働き方改革が進めば、「契約」というものをみんなが理解し、個人事業主の立場も強くなっていくと思われます。
契約額をどう決めればいいのかわからない
社員は決められた給与で仕事をします。期待された以上の成果をあげれば、あとで評価されて給料があがったり、賞与に反映されることはあります。
しかし、そのプロジェクトはその時の給料でするわけです。その時の仕事の内容が、その時の給料に直接、反映される訳ではありません。
個人事業主化社員の場合は、プロジェクトごとの契約に基づいて額が決まります。
社員でプロジェクトを進めるときには、そのプロジェクト成果に値段を決めていなので、それを委託するとなると、価格を決める基準がありません。
これは、会社と個人事業主化社員が、よく話し合いながら進めるしかありません。
追加の仕事を頼むときはどうするのか
これまで説明した、指示命令や業務委託契約にも関連しますが、追加が必要な仕事が出てきたときに、簡単に追加できません。
これまでは、部下に「これも、やっとけよ」と一言で済んだものが、この追加仕事の内容はこれで、必要な成果はこれで、それにかかる委託額はいくらになります。契約書案はこれですが、これで、契約しますか?となります。
これも、経験を積み重ねるほかないでしょう。
個人事業主化社員のメリット、デメリット
当然のことながら、個人事業主となった社員にとっても、メリット、デメリットがあります。
個人事業主化社員のメリット
自分の裁量で自由にできる
仕事を進める上で、就業時間に縛られることがないので、自分で自由に勤務時間を決められます。時間ばかりでなく、働く場所も制約はなくなります。
仕事に関わらず、社員として当然の行為、飲み会であったり、会社行事への参加なども自分の裁量で、参加、不参加を決められます。
これは、考えようによっては重要なことです。社員時代と同様に、会社のムラ社会を維持するための行事に参加するか、個人事業主である自分を考えて、スキルアップに時間を使うか。
ここを割り切れない人は、個人事業主化しても成功できないかもしれません。
仕事のための時間や場所を自由にできるとしても、会社内で個人事業主として働く場合は、会社のデスク、パソコン、ネットワークの使用はできるように、契約書に入れるべきでしょう。
契約に基づいた仕事
委託契約は、プロジェクトに対しての成果と契約額が決められます。個人事業主にとっては、契約の履行が最優先課題になります。
契約書にない仕事を振られたときは、基本的に、契約書を確認して断る、もしくは、追加で契約書を交わして追加の報酬をもらうことになります。
副業も自由
個人事業主なので、副業というのは正確ではないですが、主契約の会社以外の会社とも契約が自由です。
どのように契約したプロジェクトを調整しながら、成果を出していくかも個人事業主の腕の見せ所になるでしょう。
経費で落とせる
個人事業主は、サラリーマンにはない、ある意味あこがれの「経費で落とす」という技が使えます。
金の損得だけでなく、自分の業務を効率化するためにも使えます。
例えば、パソコンの能力を変えれば、仕事の効率が上がる、と自分が判断すれば、すぐに注文できます。
これは、社員時代には簡単にできないことです。「パソコンの能力を上げることにより、これだけのタスクが効率化されて、導入費用より有利になりますよと、パソコンを使えない上層部に根回しをしてから稟議書を回して・・・」ああ、めんどくさい。
個人事業主化社員のデメリット
これは、会社にとっての都合のいい面の裏返しがあります。あとは、自由を手に入れるために必要な手間があります。
収入の不安定さ
個人事業主になると、自分の裁量で仕事を探し、契約し、実施するわけですから、会社員時代の何倍も収入が増える人もいるでしょう。反面、収入が何分の一かに減る人も、当然いるわけです。
個人事業主化社員だと、それほどの変動はありませんが、基本は同じです。
契約解除で実質的なリストラになる不安
会社から、「契約終了です。次の契約はありません」と告げられ、実質的にリストラされる場合も考えられます。
これも実力主義ですから、その人に価値があれば、より高い契約額で再契約してくれるでしょうし、その人の価値が低く、その人より安い額でいい仕事をする個人事業主がいれば、会社は別の人と契約し、契約は打ち切られるでしょう。
会社員ほど社会的信用、社会的地位がない
会社員は会社を背にしょって仕事をしています。ちゃんとした会社になれば、そこの社員であるだけで、社会的な信用が得られます。
個人事業主は、いわば一人親方ですので、よほどのカリスマ的な人でない限り、会社員のような社会的信用、社会的地位はありません。
しかし、個人事業主として築いたコミュニティなどは、会社員時代と違った価値を持ってくるでしょう。
個人事業主化社員だと、外部から見ると社員と見分けはつかないので、特にこのデメリットはないのかもしれません。
ローンが組みにくくなる
これは、社会的信用とリンクしています。
ローンが組みにくくなるばかりでなく、クレジットカードも作りにくくなるようです。
会社員が独立起業しようとするときは、大きいローンを組み終わったり、クレジットカードを作ったりしてからのほうがいいかもしれません。
社会保障が大きく変わる
個人事業主は厚生年金に加入できないため、国民年金の上乗せなどで対応する必要がでてきます。
個人事業主には、当然、退職金制度もありませんので、将来の保証は別途考えなければいけません。
全て自分の責任
良くも悪くも、自分の決定したこと、行動した結果は全て自分の責任になります。
雑務が増える
会社員時代に会社がしていた、雑務も全部自分でこなさいといけません。
青色申告のための書類整理が一番主なものでしょうか。
優秀なアプリを導入するか、早めに所得をあげて税理士に任せるのがいいでしょう。
個人事業主化を導入したらどうなるか
個人事業主化社員は、会社にとっても社員にとっても大きな変革です。特に社員にとっては、いままで会社という保護者のもとで生活していたのに、いきなり外に出て、全て自分の責任でやることになります。
自由と実力の世界です。青色申告のような雑務も出てきます。
会社にとって、個人事業主化社員を社内に置くことは、職務能力の充実、経費の削減、リスク管理などの面でメリットが大きいと思われます。
損得で考えると、会社は、これまでの社員の給料+30%くらい(手当、社会保険料)がカットできます。タニタの例だと、これと同額か、わずかに多い額で個人事業主化社員と契約しているようです。
つまり、会社はほぼ同じ額で同じようなパフォーマンスを手に入れられる。しかも、総務・庶務部門をスマート化できるとともに、会社としてのリスク分散もできることになります。
個人は、会社としての後ろ盾は弱くなる、事務処理が増えるなどありますが、収入は増え、仕事の自由度も得られるわけです。
すでに、社員の個人事業主化に着手したタニタは、労務管理もしっかりした会社ですので、このような改革を始めることができたと思います。
日本には、規模がある程度大きくなっても、出退勤管理さえもまともにできていない会社が多くあります。
それを考えると、経験のある個人事業主を社員待遇で社内で働いてもらうのが、現実的なスタート方法になるのではないでしょうか。
まとめ
社員の個人事業主化、あるいは個人事業主を社内で働いてもらうことは、これからの会社経営にとっても、働く側の働き方の選択肢が増える意味でも、有意義なことです。
また、個人事業主には、定年がありません。これは、これからの老齢でも働き続けなければならない社会にとって、重要なことです。
このことは、会社にとっても個人事業主化社員にとっても、大きなメリットです。
定年退職の前にその準備を進めて、会社リタイア後は、それまでのスキルも含めて、ますます活躍するというのが、一つの理想的な働き方であることは間違いありません。
このように、個人事業主化社員は、夢と実効性の高いものといえます。個人にとっても、会社にとっても大きな利益を生む方法といえるでしょう。
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