CIAといえば、アメリカ合衆国の情報機関で、外国での諜報を行う大統領直属の組織です。アメリカ中央情報局といわれ、スパイ映画にはなくてはならない存在です。
軍とは独立しているものの、アメリカにとって有利になるような活動、反米政権打倒の援助や外国の左派政党の弱体化、外国での情報操作などを行っているとされます。
2008年に公開されたとされる第二次世界大戦時のCIA秘密資料が、敵対組織を「サボらせる」ものです。私は、「CIAのスパイマニュアルに学ぶ「会社をダメにする11の行動様式」という記事で見つけました。
このマニュアルをもとに、会社組織運営がどうあるべきか考えてみました。
一見すると、組織として守るべき項目が並んでいます。逆にそれが組織を弱体化するのです。
サボり方ガイド
このスパイマニュアルは、敵対する組織の生産性を落とすために、送り込んだスパイなどを使い、どのような「サボり方」が有効か、という内容です。その内容とは、次の項目で構成されています。
- 「注意深さ」を促す。スピーディに物事を進めると先々問題が発生するので賢明な判断をすべき、と「道理をわきまえた人」の振りをする
- 可能な限り案件は委員会で検討。委員会はなるべく大きくすることとする。最低でも5人以上
- 何事も指揮命令系統を厳格に守る。意思決定を早めるための「抜け道」を決して許さない
- 会社内での組織的位置付けにこだわる。これからしようとすることが、本当にその組織の権限内なのか、より上層部の決断を仰がなくてよいのか、といった疑問点を常に指摘する
- 前回の会議で決まったことを蒸し返して再討議を促す
- 文書は細かな言葉尻にこだわる
- 重要でないものの完璧な仕上がりにこだわる
- 重要な業務があっても会議を実施する
- なるべくペーパーワークを増やす
- 業務の承認手続きをなるべく複雑にする。一人で承認できる事項でも3人の承認を必須にする
- 全ての規則を厳格に適用する
主な事項をみていきましょう。
慎重さを重視するように促す
「注意深さ」を促す。スピーディに物事を進めると先々問題が発生するので賢明な判断をすべき、と「道理をわきまえた人」の振りをする
優れたリーダーシップのもとでスピーディに事業が進む組織が進化していく組織です。それにブレーキをかけようとするものです。
リーダーが突き進もうとする時に、技術部門の課題が解決しないと危険性があるとか、リーダーの進め方ではリスクをゼロにできないので、安全管理を完全にしてから前に進むべきだとか進言されれば、リーダーも慎重にならざるを得ないでしょう。
その結果、チャンスを失うわけです。
ちなみに、リスクはゼロにはなりません。適切にマネジメントしていくものです。
案件は大きな委員会で検討する
可能な限り案件は委員会で検討。委員会はなるべく大きくすることとする。最低でも5人以上
行政組織がよく使うのが「委員会」です。学術経験者や専門家を入れて、委員会で検討するとそれなりの意見が収集されて、結果に「ハク」がつきます。委員会には関係者が入っているので、決定を実施に移す際に文句も出にくくなります。
課題としては、とにかく結論が出るのが遅くなることです。結論が出たときには賞味期限切れだった、という事態も起こりかねません。顔合わせから始まって、説明、意見討論、まとめ、次の準備、これを繰り返して結論を導きます。委員はそれなりの人ですので、スケジュール調整も大変です。委員の数が増えていくと、それだけで意思決定のスピードを落とせます。
それから、優れた裏方だと、委員会の方向性も操ることが可能です。さまざまな意見を持った委員をまとめるのが裏方ですから、情報操作の能力に長けていればどうにでもなりそうです。逆に、裏方がコントロールせず委員の言いたいように意見を出させると、まとまりはつかないでしょう。
指揮命令系統は絶対
何事も指揮命令系統を厳格に守る。意思決定を早めるための「抜け道」を決して許さない
いいですね。これを徹底すると危機管理が出来なくなります。危機への対応は意思決定の集中と迅速さにあります。通常のルーティンワークで回っている指揮命令系統を危機時に回そうとすると、途中が抜けていたり、そもそもトップが意思決定できる状態でなかったりして、いっぺんに破綻します。
常時戦場が予想されるこれからの変化の激しいビジネスシーンで、このような組織運営を行っている会社は最初に衰退しそうです。
常時においても、指揮命令系統を厳格に守りすぎると、柔軟性にかけた変化に対応できない組織になります。
組織的位置づけにこだわる
会社内での組織的位置付けにこだわる。これからしようとすることが、本当にその組織の権限内なのか、より上層部の決断を仰がなくてよいのか、といった疑問点を常に指摘する
組織人間にありがちな考え方です。組織人間的な思想はだれでも大小に関わらず持っていますので、それが育つように囁やけば、意思決定論を勝手に考え出して、自分の責任をとらない組織が出来上がります。もとろん、事業のスピードも落ちます。
前回の会議で決まったことを蒸し返して再討議を促す
完全な資料に基づいた完全な議論の会議はありえませんので、前回の結論を蒸し返すのは至極簡単です。議題の見方を少し変えてみれば、いくらでもその資料は作れるでしょう。
これで、会議回数を少なくても1回は増やすことができます。
文書は細かな言葉尻にこだわる
ここは、「は」がいいか「が」が適当か、この修飾語はどの単語にかかるのか、など。まさか今どき、このようなことにこだわる人はいないとは思いますが、組織を停滞させたいなら、中間管理職に言葉尻にこだわる人を配置して、会社の文書は全てその人のチェックを通させることです。
重要でないものの完璧な仕上がりにこだわる
これは、作業の重要が分からない若手に特に有効です。全てを完璧に仕上げさせるのです。いっぺんに実作業のパフォーマンスが落ちます。完璧に仕上がるまで他の人に相談しないで自分一人で作業するように指示するとさらに効果的です。
大体、作業は重要なものであっても、完璧に仕上げるよりも、8割位の完成度で次の段階に進んだほうが効率的です。
20%の力で80%の結果を得ることを「2割8割の法則を活かす方法」で説明しました。
重要な業務があっても会議を実施する
事業実施や調整業務よりも会議を優先して実施すると事業が進まなくなります。会議をうまく転がすと、会議のための会議が必要になり、会議を企画運営する人員を割く必要がでてきて、社員は忙しそうにしていても、事業自体は停滞させることができます。
なるべくペーパーワークを増やす
ペーパーワークは重要です。ペーパーに重要度を持たせ、意思決定のどの段階にあるかを常に明確にし、表現の言葉尻は完璧に処理すると、ペーパーワークのために仕事をする人間も出てきて、本当に取り組まないといけない事業以外の事務事業が一気に増えます。
承認手続きの複雑化
業務の承認手続きをなるべく複雑にする。一人で承認できる事項でも3人の承認を必須にする
係長を飛び越えて課長の承認を受けることは絶対にあってはいけません。緊急の場合も例外は認められませんし、課長の承認を受ける前に最低二人の直属以外の係長の承認も得るようにすれば、係員の企画能力を著しく落とすことができます。
全ての規則を厳格に適用する
規則を破った者に対しては懲戒など厳しい態度で臨めば、組織に逆らおうと考えなくなるし、自分から組織を変革しようしなくなります。
能力を上回る量の仕事を与えて、仕事以外に考えが及ばないようにすると、会社に都合のいい「社畜」を育てることもできます。
まとめ
CIAのスパイマニュアルに示された項目は、あなたの組織でも思い当たることではなかったでしょうか。
説明は、CIAスパイの立場で行いました。しかし、会社にはこのような考えをする社員がいることも確かです。無意識や正義感が考えのベースにあるだけに、かえって厄介かもしれません。
組織が停滞している、いざという時に対応できなかったときは、このCIAのスパイマニュアルを思い出してください。このマニュアルを反面教師に組織の改革を進めるのも一つの手かもしれません。
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