リスク管理と危機管理の使い方を間違っていませんか

最近、よく耳にするリスク管理、危機管理ですが、ちゃんと使い分けていますか?
理解されないまま使っていると、笑われてしまいます。

災害時などに問われる危機管理能力、普段に取り組むべきリスク管理ですが、最近は、会社や社会だけでなくミュニティや個人にも必要になっています。

危機管理

危機とは

すでに起こってしまった、やっかいな事柄(トラブル)になります。英語では、crisis(クライシス)です。
危機の定義はいろいろありますが、ここでは次のものを危機と考えます。

想定外である

一時期、行政が「想定外の雨で川が氾濫したなど」と言い訳をしたおかげで、「想定外」を使うのは悪いことという雰囲気が定着してしまいました。

しかし、「想定外」を批判する人たちは、行政も経済も分かっていないと言われても仕方ありません。想定外に完全に対応することは不可能ですし、予想できる想定外に半分でも対応しようとしたら国は潰れてしまいます。

起こってしまった危機は、基本的にコントロールできない

3.11の地震・津波をコントロールは出来ません。起こってしまった9.11の同時多発テロをコントローすることは出来ません。

発生した事象から悪い結果がもたらされる

株価の急激な下落は恐慌などの経済危機を引き起こします。それは、株価の下落が経済に悪影響をもたらすからです。

危機管理とは

英語で言えば、Crisis Management(クライシスマネジメント)となりますが、すでに起こってしまった自然災害やサイバーテロなど、トラブルの元をマネジメントできるはずがありません。

国や地方自治体で、「危機管理室」とかありますが、「起こってしまった大災害をマネジメントできるのかい!」と突っ込みたくなります。

通常の危機管理とは、発生した危機に対して、被害拡大防止や事業復旧計画を立て、実行することを指します。ですので、正確には「危機被害軽減管理」なのでしょうか。

危機管理には、即断即決が必要とされます。トップの判断と責任が最も求められるときです。
これからみると、危機管理は個人でなく、会社や社会、コミュニティ、家族などのシステムにおいてされるものです。

そして、大抵の場合、危機は前例がなく、危機からもたらされる結果は予測不能なため、なおさらトップの能力が問われることとなります。

リスク管理

リスクとは

危機が起こってしまったトラブルだったのに対し、リスクは将来起こるであろうトラブルをいいます。そのトラブルは、マイナスの結果ばかりでなくプラスの場合もリスクという場合もあります。

経済、経営、工学、安全衛生管理などなど各分野で定義が微妙に違うようです。国でも経産省と厚労省のリスクの定義が違うと困ります、が現実です。

ここでは、リスクを次のように考えます。

リスクとは不確定なことについて確率的に計測できるもの

アメリカの経済学者フランク・ハインマン・ナイトの定義です。リスクの定義は、多々ありますが、最も言い当てている気がします。
起こり得るトラブルの可能性を予測できるものがリスクと言えます。

例えば、あなたが朝の身支度をすませて、会社へ出勤しようとしています。玄関の段差でつまずくかもしれません。これもリスクです。駅への道の曲がり角で人とぶつかるかもしれません。これもリスクです。この例は予測できるものです。

リスクの常識

ゼロリクスはありえない

時々、リスクとはなにか感がたことがない人から、「リスクをゼロにしろ」という言葉が発せられることがあります。思わず笑ってしまします。

リスクをゼロにすることは出来ません。

先程の例ですと、通勤で駅までの道でも多くのリスクがあります。それをゼロにすることは活動自体を否定しているようなものです。

リスクの語源は、ラテン語のrisicareと言われます。意味は、「勇気をもって試みる」だそうです。将来、起こるであろうトラブルを予想して勇気を持って進む、そこまでがリスクなのでしょうか。進む方法は、現在はリスクマネジメントとして体系化されつつあります。

不思議なのは、リスク(risk)の適当な和訳がないことです。危険性と訳している人もいますが、なにかもう一つしっくりきません。

リスクは受け入れなければならない

リスクマネジメントはリスクを認め、受け入れることから始まります。認めないことにはマネジメントも出来ません。そして、その結果をどのように受け入れるか決めなければなりません。

もちろん、リスクを避ける選択肢もあります。その場合は、リスクが含まれる分野から撤退を意味します。

リスクは「不都合な真実」なようなもので、直視したくない、認めたくない、知らなくてもなにも対応しなくても今日も明日も問題なく過ごしていけるだろう。そういう類のものです。

「不都合な真実」の上映は2006年、それまでは地球温暖化や環境問題を直視する国は、ほとんどなかったのです。

リスクはコントロールできる

危機とリスクの決定的なところです。危機は起きてしまったことですから危機自体をコントロールすることは出来ません。リスクは将来のトラブルですから、予測して対応を考えることが可能です。

リスクアセスメント

リスクをコントロールするためには、リスクを想定しなければなりません。
安全衛生の分野では、リスクアセスメントが用いられます。この考え方は、別の分野でも応用できるものです。それは次のプロセスからなります。

リスクの特定

リスクを見つけ出すことです。通勤で段差につまずく例をあげました。家の段差でつまずいて足首を捻ったくらいなら笑い話で済むかもしれませんが、会社の段差で転倒して捻挫したら立派な労働災害です。転倒した人も痛いですが、会社にとっても大きな問題です。

人間は、1cmの段差でも転倒する時は転倒します。このように、リスクの原因になるような箇所を洗い出すことをリスクの特定といいます。

リスク分析

リスク見積りともいいます。見積もり方法はたくさんありますが、簡易さ、理解しやすさで、リスクマトリクスがよく使われます。

例えば、会社で転倒することが予想される場所で1年に1回コケ、通院が予想されると次のようになります。

5点の見積もりがつきました。これがリスクの見積もりで、リスクマネジメントではこの点数を低くしていく活動をします。

リスク評価

見積もった点数を評価しなければなりません。例だと次のような評価基準にてらして、「速やかに対策が必要」となります。

  • 8~10点・・出来得る限りのリソースを投入して、直ちにリスク低減措置を講じる。措置が終了するまでは作業を停止する。
  • 5~ 7点・・優先的にリソースを投入して、速やかなリスク低減措置を講じる。措置終了まではリスクに注意して作業を進める。
  • 2~ 4点・・必要に応じてリスク低減措置を講じる。
  • 1点 ・・・リスクを許容し低減措置は行わない。

リスク評価を行う意味は、時間や資金、人間などのリソースに限度があるからです。しかも、リスクは多く存在し、その全てに完全に対応することは不可能です。

転倒の危険のある段差に全て対策を施すのは現実的ではありません。それぞれのリスクに対し評価を行い、緊急度の高いリスクから先に受け入れ可能な点数まで落としていくしかないのです。

リスクマネジメント

リスクマトリクスを用いた評価を行った場合、評価点を下げる方法がリスクマネジメントになります。主に次の方法があり、単独であるいは組み合わせて行われます。

リスク回避

リスクの原因を除去することです。リスクの原因がなくなればリスクの存在もなくなります。最も適切な方法に思えますが、多くの場合、課題が多すぎて完全に適応できなかったり、新たなリスクが生み出されたりする場合もあります。

転倒の例だと、会社の全ての段差、階段をなくすと、段差につまづいて転倒することはなくなります。そのためには、駐車場と同じ高さで会社を作り直す必要があります。もちろん社屋は1階建てです。それは多くの場合、現実的ではありません。

リスク低減

リスクの発生率を低下させることです。
最も現実的な手法になります。関係者の知恵が試されます。

転倒の例だと、段差の箇所を確認しやすくするために照明を明るくする、段差の箇所に目立つ色を付ける、転倒してもケガが軽いように床を柔らかい材料に変える、などです。

リスク移転

保険に加入するなどの対策を行うことです。リスク自体はなくなりませんが、リスクが具現化した場合、資金面でリスクの損失を肩代わりすることができます。

リスク保有

リスクが顕在化しても、その影響が軽微と判断される場合、リスク回避、リスク低減、リスク移転などの対策を行わず、損害の負担を受容することです。

会社で自動車事故のリスクに備える場合を考えてみます。ほとんどの会社では、自動車保険に加入していると思います。これは、リスク移転です。
社員への教育が行き届き、社員の意識も高く、事故を起こす可能性が平均より相当低い場合、自動車保険に加入しない選択肢があります。これはリスク保有に当たります。

もちろん、社員の意識や教育のほかに、事故が起きた場合の専用の対応部署を抱えているような大きな組織に限られます。自動車保険代を払うよりも、個々に対応したほうが、はるかに安いという実績の上での判断になります。実際そのような対応をしている組織があります。

まとめ

危機管理とリスク管理、違いがおわかりになったでしょうか。
「組織にとって悪い事象の発現への対応」と見てしまえば、同じように見えますが、危機管理が起きてしまった事象への対応なのに対して、リスク管理はこれから起きるであろう事象への対応です。

また、危機管理は事象をコントロールできないのに対して、リスク管理ではリスクアセスメントさえしっかりしていれば、事象をコントロールすることが出来る、つまりリスクマネジメントができるのです。

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