リスクアセスメントで効果的な人材育成と安全衛生管理の一挙両得

あなたの職場では、職場研修が研修のための研修になっていませんか。
講師側も受講者側もノルマのための研修になってはいませんか。

職場のリスクを社員が理解していますか。
労働安全衛生上、課題のある箇所が職場には散らばっているはずです。それを社員は認識していますか。

これらを解決し、社員の資質もあげていこうというのが、リスクアセスメントを用いた研修の実施です。

職場研修の目的

研修ごとに目的、目標はざまざまでしょうが、最終的な目的は参加者が研修をとおして、なにかを学び、研修を受ける前と後では良い方向に変わること、そしてそれを職場で活かすことではないでしょうか。

知識を詰め込むだけの研修、パワーポイントと資料の説明だけでは不十分なことが理解されてきて、最近ではマネジメント的な研修が多くなっています。それでも、研修の題材が架空のものであったり、研修結果が実践に活かしにくいものであったりします。

大きい会社で部門が違えば、共通の有意義な研修課題が見つからない場合もあります。かといって、職務からあまりにかけ離れた課題では、実践に活かせない研修になります。

そのような問題を解決する題材がリスクアセスメント手法を用いた研修です。これは、参加者の自己変革を促すだけでなく、職場の安全衛生管理を社員自ら行うようになる一挙両得の方法です。

リスクアセスメントとは

リスクアセスメントとは、リスクマネジメントの一部で、リスクを見つけ出して分析、評価するものです。職場のリスクは、経営上のリスク、人事労務リスク、事故発生リスク等々あります。

リスクとは、予測可能な将来起こり得る避けることのできない出来事です。似た言葉が「危機」ですが、危機とは想定外の起きてしまったトラブルで、それ自体をコントロール事はできません。

リスクは予測が可能で、リスクを見つけ出し、分析し、評価することができるため、最適な研修材料と言えます。

リスク管理と危機管理については、「リスク管理と危機管理の使い方を間違っていませんか」で説明しています。

研修材料としてのリスクアセスメント

職場を取り巻くリスクは、種々多様のため研修材料を絞る必要があります。ここでは安全衛生上のリスク、特に職場の安全を研修の対象にすることが適当です。

職場の安全衛生管理は、社員が健康を保ち、危険を最小限にして安心して働くうえで重要なことです。労働衛生は、病気を対象にするため医師などの専門的な意見が必要になりますが、労働安全は労働災害を防ぎ、安全・安心に働ける目的から、働く人なら誰でも取り組むことができます。

また、普段の職場環境を対象とするため身近な課題でもあります。
しかしながら、身近であるからこそ慣れてしまって見落としていることも多いのです。それを発見させることから始めます。そして、それがどのようなリスクかを分析させます。それから、そのリスクが重大なのか軽微なものなのかを評価します。

以上がリスクアセスメントになりますが、リスクは、見る人によって捉え方が異なってくるため、研修は意見を交換するグループ形式になります。普段の職場だからこそ、リスクがそこにあることさえ気付かない人がほとんどです。

分析や評価は個人の価値観や職務上の立場から多くの意見が出てきます。それをまとめ上げることが研修にとって非常に有意義になります。

なお、リスクアセスメントでの研修は性格上、短期間では終わりません。「2時間の研修を5回」などの計画が効果をあげやすいと思われます。

職場の「そこにあるリスク」を気付かせる

例えば、どこの職場でも本棚はあると思います。本がなにかの拍子に落ちる可能性はないですか?落ちてきた本が人に当たる可能性はゼロですか?高いところの本を取るのに脚立を使いますか?脚立の使い方は安全ですか?

どこの職場にも階段や段差はあると思います。そこで転倒する可能性はないですか?転倒してもケガをしませんか?

このように安全衛生に関するリスクは、見つけようとすればいくらでもあります。
最初の研修は、参加者に「そこにあるリスク」を気付かせるためのものになります。

まずは、リスクの発見の方法を教え、次の研修までに自分の職場のリスクをピックアップしてもらいます。

このとき、グループ分けも行いますが、グループは4~6名が適当です。多すぎても少なすぎても良い結果が得られにくくなります。

リスクの特定

リスクの特定とは、リスクを発見することです。今回の場合、フィールドは職場、対象は安全衛生に関するものになります。参加者は最初の研修で得た知識を自分に対応させながらリスクをピックアップしていきます。

その際に、まとめるべき項目をあげます。

  • そのリスクの概要のまとめ(文章、図、写真など)
  • そのリスクがどのような安全衛生上の結果をもたらすのか
  • その結果は、自分や職場にどのような影響をもたらすのか

複数ピックアップし、グループ討議では各人1つか2つのリスクについて説明します。
それについて、意見を出し合い、グループとして今後、分析・評価するリスクを1つ選びます。

選定の時に提案されたリスクを実際見に行きます
研修ですので、リスクの特定、分析、評価ごとに発表の場も設けるようにしましょう。

例を、執務室入り口にある段差として説明します。
次の点をリスクの特定としてまとめます。

  • その段差は何センチなのか
  • どの位置にあり、誰がどのように利用するのか
  • 過去に事故歴はあるのか
  • 転倒した場合、ケガはどの程度が考えられるか
  • ケガをする人はどのような人で、その結果は仕事にどのような影響をもたらすか
  • (自分が入院程度のケガをしたら、プロジェクトが中断しその影響は・・・お得意様が入室の際ケガをしたら、契約が打ち切りになる。・・・・など)

リスクの分析、リスクの評価

実際のリスクアセスメントでは、リスクの分析→リスクの評価と進んでいきます。リスクの評価には評価基準が必要ですが、研修ではこの評価基準の作成も行います。

リスクの分析は、各グループでおこないますが、リスクの評価基準作りは組織全体の価値観で考える必要があります。リスクがもたらすケガが同じ程度なのに、グループで評価が大きく異なると困るからです。

講師役の人は評価基準が統一されるように導く必要があります。
研修での順序は、リスクの評価基準作り→リスクの分析→リスクの評価となります。

リスクの評価基準作り

例えば、下のような基準を作ります。例の点数は1~10点ですが、1~5点などにしてもかまいません。

慣れないうちは、リスクの分析、リスクの評価の途中にリスクの評価基準作りの見直しを入れていいかもしれません。

リスクの分析

特定されたリスクに対して、点数をつけます。これにはリスクマトリクスを用いた方法がわかりやすく一般的です。

リスクマトリクスは、リスクが発生した場合の発生確率と重大さを縦横に表にしたものです。
例で取り上げている段差から生じるリスクの発生頻度は「時々」、重大さは「軽度」と判断され、リスクのポイントは「5」になりました。

発生確率や重大さの表現がわかりにくければ、次のように言い換えます。

リスクマトリクスは、固定されたものでなくリスクの性格により変わるべきもので、点数の配分についてもグループで議論されるべきです。

例えば、リスク特定された段差の点数は、時々発生して軽度で5点がつきました。これは、評価基準では「望ましくない」ものです。対象を社員とすれば適当ですが、対象が重要なお客様になると「許容できない」になるのではないでしょうか。

リスクの評価

分析された結果を評価基準に基づいて評価します。客観的かつ中立公正に評価するため主観ができるだけ入るのを防ぎます。評価が客観的かつ中立公正でないと、リスクアセスメントの次の段階であるリスクマネジメント手法の判断がぶれてくるからです。
その意味でリスクマネジメント手法を研修で知識として教えておく必要があります。

段差のリスクの例のリスクの評価は、点数が5ですので、リスクレベルⅢに該当。「望ましくない」状況で、「優先的にリソースを投入して、速やかなリスク低減措置を講じる。措置終了までは特定されたリスクが生じない措置を講じる。」ことになります。

得られた評価に対して、解決の可能性も抽出しておきます。
段差のリスクの例だと次のようになります。抽出の手法としてブレインストーミングやKJ法が適当です。

  • 人が近づくと発光して注意喚起を促す
  • 警備員を配置して注意喚起を促す
  • 段差の前で一時停止する
  • 段差をなくしてスロープにする。この場合スロープのリスクアセスメントも必要
  • 転倒してもケガがないように床をクッション性の高い材料に変える などなど

リスクコミュニケーション

リスクアセスメントに際しては、リスクコミュニケーションが重要になります。
リスクコミュニケーションとは、特定されたリスクに対して分析、評価の際に関係者と情報を共有したり意見交換を行い、意思の疎通を図ったりすることです。

段差のリスクの例でも、対応するには、リスクで被害を受けるであろう人、対策をするに際して、施設の管理者、予算を確保する人、対策を実行する人など多くの関係者(ステークホルダー)が存在します。

ステークホルダーとの意見調整なくしては、意味のあるリスクアセスメントはできません。
研修では、研修会場から外に出てコミュニケーションをすることになります。外部との意見調整や意思疎通が求められることから、リスクコミュニケーションは意味のある研修項目となります。

リスクマネジメント

リスクアセスメントの研修からは外れますが、次の段階では、リスクアセスメントを受けてリスクマネジメントを行っていきます。主目的は、リスクレベルの低減になります。

リスクマネジメントは、費用や人事、事業が絡んでくるため、実践可能なマネジメントを提案するためには、各方面との意見調整が必要になります。もし、研修にリスクマネジメントまで取り入れるなら、より意義の深い研修内容になります。

リスクマネジメント手法については、「リスク管理と危機管理の使い方を間違っていませんか」で説明しています。

まとめ

リスクアセスメントを取り入れた職場研修を説明してきました。リスクアセスメント自体、多くの手法があるので、ここで取り上げた方法だけがリスクアセスメントではありません。研修では常に評価基準やリスクマトリクスなどを見直していく姿勢が重要になります。

有効なリスクアセスメントが出てきたグループを表彰する、出てきたアセスメント項目を対策実施を前提としたリスクマネジメントの段階に進む、など目に見える成果が得られると、研修の真剣さが増してきます。

また、労働安全衛生管理は職場環境上、必要不可欠のものです。研修をとおして社員が労働安全衛生に目が行くようになり、自分で箇所の気づきや対策まで考えることが出来るようになります。

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