パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行は2020年6月1日です。
これで、やっと世間では一般的であった「パワーハラスメント」という言葉が、行政でも使われるようになりました。
一方で、セクシャルハラスメントは、男女雇用機会均等法で前から使われていました。同じハラスメントの文字を使うのに違いはあるのでしょうか。
働く人や事業主は何を知っておけばいいのでしょうか。
ハラスメントの種類
世はハラスメント花盛りで、パッと思い出すだけでも、パワハラ、モラハラ、セクハラ、マタハラ、アカハラ、アルハラ・・・50種類以上もあるらしいです。
しかし、法も含めて認められているのは、次の三つです。
- パワーハラスメント
- セクシュアルハラスメント
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
少し細かく見てみましょう。
パワーハラスメントとは
パワーハラスメントは、パワハラ防止法でやっと世に出た言葉です。パワーハラスメントで労働局に相談に行った時に、そういう言葉はないから、と言われ、今度これが出ます、と渡されたパンフレットが、下です。
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/pawahara_gimu.pdf
「厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)」
上司や逆らえない人からの言動
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚⼜は部下による言動で、同僚や部下のほうが知識や経験を持つことで協⼒を得なければ仕事が進まなくなる場合
- 同僚⼜は部下からの集団による⾏為で、これに抵抗⼜は拒絶することが困難であるもの
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂⾏するための⼿段として不適当な言動
- パワハラの回数、⾏為者(パワハラをする人)の数などが一般に考える範囲を超えている
- 人格を否定する言動
あまりにもひどい言葉は、パワーハラスメントになりますが、
境界線の言動は「総合的」に判断していきます。
調べて、個々に決めるよ、ということで、いままさに、パワハラを受けている方としては「使えない」と思われるでしょう。
労働者の就業環境が害されるもの
パワハラで、「ちゃんと働くこと」に支障が生じること。
この場合は、「平均的な労働者の感じ方」を基準とするとあります。
パワーハラスメントの具体例
- 殴る、蹴る、物を投げつけるなど身体的な攻撃
- 人格を否定する、厳しい叱責の繰り返しなど精神的な攻撃
- 仕事外し、別室に隔離など人間関係からの切り離し
- 能力を上回る過大な要求をされる
- 能力を下回る過小な要求をされる、仕事を与えない。
- 私的なことに過度に立ち入るなどの個の侵害
パワーハラスメントついては、下の記事に詳しくまとめてあります。
「パワハラ防止法とは・2020年6月1日施行」
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セクシャルハラスメントとは
職場におけるセクシュアルハラスメントとは、働く人の意に反する「性的な⾔動」で働く人が労働条件について不利益を受けたり、「性的な⾔動」により就業環境が害されることです。
パワーハラスメントと最も異なるところは、「意に反して」でしょうか。
「性的な言動」とは
例として、
- 性的な事実関係を尋ねる
- 性的な内容の情報(噂)を流す
- 性的な冗談を言う
- 食事やデートへの執拗な誘い
- 個⼈的な性的体験談を話す
- 性的な関係を強要する
- 必要なく⾝体へ接触する
- わいせつ図画を配布・掲⽰する
- 強制わいせつ⾏為 など
性的な言動を⾏う者は、事業主、上司、同僚に限りません。取引先や顧客などもなり得ます。
男⼥とも⾏為者にも被害者にもなり得ます。
異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当します。
こう考えると、パワーハラスメントにくらべて、かなり範囲が広いですね。
分類では「対価型」と「環境型」があります。
「対価型セクシュアルハラスメント」とは
セクシュアルハラスメントを受けた労働者が、拒否や抵抗をしたことにより、その労働者が解雇、降格、減給などの不利益不利益を受けることです。
●典型的な例
- 事業主が性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇した。
- 車中で上司が腰、胸などに触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をした。
- 事業主が⽇頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格させた。
「環境型セクシュアルハラスメント」とは
セクシャルハラスメントにより、就業環境が不快なものとなったため、能⼒の発揮に重大な悪影響が生じるなどなること。
●典型的な例
- 上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じて就業意欲が低下していること。
- 同僚が取引先において、性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が⼿につかないこと。
- 抗議をしているにもかかわらず、同僚が業務に使⽤するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため、それを⾒た労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。
セクシャルハラスメントの判断基準
セクシュアルハラスメントかどうかは、個別の状況をみていく必要があります。
また、パワーハラスメントより、労働者の主観を重視されるようです。
「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境を害される」の判断では、主観性とともに一定の客観性が必要です。
意に反する⾝体的接触で精神的苦痛を被った場合は、⼀回でも就業環境を害することとなり得ます。
継続性が要件となるものであっても、
「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」
「心⾝に重大な影響を受けていることが明らかな場合」
には、就業環境が害されていると考えられます。
男でも女でもセクシャルハラスメントの対象になりますが、それぞれ、平均的な考え方が違うので、そこは考えないといけません。
マタニティハラスメント
「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と法律では言われていますが、マタニティハラスメントのほうが通りがいいようです。
マタニティハラスメントは、男⼥雇用機会均等法の他に育児・介護休業法も関係しています。
マタニティハラスメントとは
マタニティハラスメントとは、職場で上司・同僚からの妊娠・出産したこと、育児休業等の利⽤に関する言動により、妊娠・出産した「⼥性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男⼥労働者」の就業環境が害されることです。
妊娠の状態や育児休業制度等の利⽤等と嫌がらせとなる⾏為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当します。
子供は国、ばかりでなく全ての人の宝ですから、法律がなくても大事にしないといけないですね。
休業や休みを伴いますので、業務との兼ね合いが難しいですが、「思いやり」を持ってあたりたいところです。
マタニティハラスメントの具体例
- 産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るなら辞めてもらう」と言われた。
- 時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」 と言われた。
- 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんて あり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
- 介護休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分なら請求しない。あなたもそうすべき」と言われた。「でも自分は請求したい」と再度伝えたが、再度同様の発言をされ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
- 上司・同僚が「所定外労働の制限をしている⼈にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し⼜は継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明⽰した場合に、さらに⾏われる言動も含む)。
- 上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し⼜は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明⽰した場合に、さらに⾏われる言動も含む) 。
- 上司に妊娠を報告したところ「他の⼈を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と 言われた。
- 上司・同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返し⼜は継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明⽰した場合にさらに⾏われる言動も含む)。
- 上司・同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り返し⼜は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明⽰した場合にさらに⾏われる言動も含む)。
ハラスメントを防ぐには
ハラスメントの発生を防止するために、事業主や労働者は次のことをしなければいけません。
事業主の責務
- 働く人がハラスメントの意識を高めるようにする
- 働く人がハラスメントをしないように研修などをする
- 事業主自体、理解と関心を深め、ハラスメントをしないようにする
労働者の責務
- ハラスメントへの意識を高め、ハラスメントを行わないようにする
- 会社の研修に参加したり、パワハラ防止策に協⼒する
まとめ
職場のハラスメントは、働く人の意欲を落とし、働く環境を悪化させるものです。力が上のものが行うため、行為者はハラスメントと認識しないで行う愚劣な行為でもあります。
しかし、ハラスメント行為で被害者になったとしても、その認定に至ることは難しく、裁判で勝ったとしても、賠償額はごくわずかと聞きます。
そのため、泣き寝入りや、あきらめて、別の理由をつけて退職する人も多くいます。
このことが、会社としてのパフォーマンスを低下させていることに気づかない事業主がいのです。
これから、働き方改革などをテコにして、労働力の流動化が加速すると考えられています。その時に重要なのが、働く人の意識の高さです。
自分が転職をする時に、次の会社を何で決めますか?賃金や労働時間だけですか?
法律もだんだん整ってきますし、これからは、ハラスメントに本当に取り組んでいる会社がどうかが、会社を選ぶ際の重要なポイントになると思います。
自分のためにも、家族のためにも、働く側が知恵をつけるべきです。
簡単なチェックリストを作りましたので、参考にしてください。
ハラスメント対応チェックリスト
- 就業規則にハラスメントの項目がある
- ハラスメントとはなにか労働者に周知・啓発してあるか
- 社内ホームページ等でハラスメントとはなにか、事業主の方針などを公表しているか
- ハラスメントに関する研修、講習等を行っているか
- 相談窓口があるか
- 相談窓口担当者はハラスメントをよく知っているか、研修を受けているか
- 相談窓口担当者はハラスメントにどう対応すればいいか知っているか
- 外部の機関にも相談を委託できるか
- ハラスメントが起こった後、事実を担当者などが確認できていたか
- その際、相談者の心身の状況などにも適切に配慮されていたか
- その際、第三者からもヒアリングをしたか
- 被害者に適切な救済措置がとられたか
- 行為者(ハラスメントをした人)に適切な措置が行われたか
- 再発防止策が取られたか
- もみ消しがなされなかったか
- 相談や事後の対応はプライバシーに配慮されたものであったか
- 相談窓口はプライバシー保護のマニュアルがあるか
- 相談窓口はプライバシーが守られていることを社員が知っているか
- 相談したことで不利益が出ないよう規定してあるか
- 以上のことをバイトを含む全社員は知っているか
これができている会社はホワイト企業なチェックリスト
- 各種ハラスメントの相談窓口が一元化されている
- ハラスメントが起きる原因を解消する取り組みをしている
- 取り組みに働く人も参加している
- 取り組みが、その会社で働く人ばかりでなく、取引先なども対象である
- 他の会社などからのハラスメントを社員が受けた時の体制を整えている
これについては、下の記事に若干詳しく書きました。
逃げ出したくなったら
ハラスメントは、気持ちよく働く環境を壊すあってはならない行為になってきています。
しかし、ハラスメントを被害者から立証して、自分の権利を確保することは非常に難しいのも現状です。
その一つに、どのハラスメントでも「継続的に」という言葉が入っています。
つまり、証拠のためには、受け続けるとわかっているハラスメントを、ICレコーダーや動画で隠し撮りし続けなければならないのです。
ハラスメントを受けていると感じた段階で、精神的にキツイのに、そこからハラスメントを受け続けながら、証拠を集め、行為者(ハラスメントをする人)や会社と闘うことは、現実にはかなり難しいことです。
ハラスメントの解決方法をググっていくと、弁護士、社会保険労務士、司法書士さんなど法律の専門家が書かれた記事が多く出てきます。
でも、専門家に頼んでも、自分でしなければならない事はたくさんあるようです。
私もハラスメント関連で退職した経験から、退職についても考えてみました。
「退職のやり方」
自分の正義をとおしていくのも大事ですが、莫大な時間とエネルギーを浪費します。
ほとんどの人がそうだと思いますが、私の場合も、自分を主張しようとするには、準備の時間が絶対的に足りませんでした。
いろいろ考えて、その会社にいられない、と思ったら、退職代行サービスの利用もありと思います。
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